秘密の地図を描こう
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そんなに無理をしたつもりはなかったのだが、とキラは首をかしげる。そもそも、体調が悪いなどとは感じていなかった。
「それなのに、どうして、入院しなきゃないんだろうね」
ため息とともにそう呟く。
「少しでも目を離すと無理をするからだろう」
即座にそう言い返される。
「ラウさん……」
確かに、それは事実かも知れない。しかし、面と向かって言われるとちょっときつく感じる。
「それに、私たちが何をしようと、最終的に君は戦場に出るだろうからね。その前に、検診をしておいた方がいいだろう、と言うのがあの男の判断だよ」
だから、おとなしく入院していなさい。彼はそう続ける。
「……僕がいると、ご迷惑じゃないですか?」
キラはふっとこんなセリフを口にした。
「何故、そんなことを言うのかな?」
意味がわからない、とラウが問いかけてくる。
「僕がいるから、プラントのとれる選択肢が狭まっているのではありませんか?」
キラは逆に聞き返す。
「そんなことはないよ」
あきれたような声音でラウが即座に言葉を口にした。
「少なくとも私にとってみればね」
さらに彼はそう続ける。
「ザフトに戻ったのは、君のフォローがしやすいだろう。そう考えてのことだよ」
他のものにしても似たようなものではないか。そう続ける。
「何よりも、不本意だがプラントにはまだ、オーブの存在は必要だからね」
あくまでも、アスハが治めているオーブだが、と彼は言った。
「我々ともナチュラルとも平等につきあおうとするオーブ。それがプラントにとって必要な存在だよ」
そのためにはキラの存在が重要になる。少なくとも自分はそう考えている。
「まぁ。それは建前だがね。それがなくても、私は君に協力をするよ」
自分を助けたのはキラだ。だから、自分の命はキラのものだろう。そう彼は言った。
「僕はそんなつもりじゃ……」
「わかっているよ。しかし、私にとってはそれは当然のことだからね」
キラは気にしなくていい。自分が勝手にそう決めただけだ、とラウは笑う。
「だから、君は好きにしていいのだよ」
問題があるとすれば、と彼は笑みに少しだけ苦いものをにじませた。
「私がバルトフェルド隊長にののしられるかもしれない、と言うことかな?」
殺されることまではないだろうが、と彼は苦笑とともに付け加えた。
「……ラウさん……」
「そうされても仕方がないことをした自覚はあるからね。覚悟はしているよ」
その言葉は嘘ではないのだろう。
しかし、だ。
「それは、僕の両親が、ラウさん達の問題を解決できないままだったからではありませんか?」
「それに関しては、君が解決してくれただろう?」
だから、それに関してはいいのだ……と彼は告げる。
「私の望みは、君が君らしくいてくれることだしね」
その姿を見ていたい。それだけでいいのだ。そう彼は続ける。
「でも、それでは……」
「今のところ、それ以上に望むべきことは見つけられないのだから、あきらめてくれると嬉しいね」
自分達がキラをかまうことを、と彼は言い切った。
「……はい……」
ここまで言われては、これ以上何も言えなくなってしまう。
「いい子だね」
そう言ってラウは微笑む。
まるでそれを待っていたかのように病室のドアが開く。
「検査の時間ですが、よろしいですか?」
そう言いながら、看護師が顔を出す。
「はい」
とりあえず、この場から一回逃げだそう。そう判断をしてキラはベッドから抜け出す。
「気をつけて行ってきなさい」
そんな彼の気持ちがわかっているのか。ラウは静かにそう告げるだけだった。